メディア総合研究所  

メディア総合研究所は次の3つの目的を掲げて活動していきます。

  1. マス・メディアをはじめとするコミュニケーション・メディアが人々の生活におよぼす社会的・文化的影響を研究し、その問題点と可能性を明らかにするとともに、メディアのあり方を考察し、提言する。
  2. メディアおよび文化の創造に携わる人々の労働を調査・研究し、それにふさわしい取材・創作・制作体制と職能的課題を考察し、提言する。
  3. シンポジウム等を開催し、研究内容の普及をはかるとともに、メディアおよび文化の研究と創造に携わる人々と視聴者・読者・市民との対話に努め、視聴者・メディア利用者組織の交流に協力する。
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声明・アピール

テレビ朝日に対する総務省の厳重注意処分についての見解

2004年09月13日
メディア総合研究所

所長 須藤 春夫
 
 6月22日、総務省は、昨年9月にテレビ朝日が放送した『ビートたけしのTVタックル』で、自民党の藤井孝男衆議院議員の国会での不規則発言の映像を実際とは違う編集をしたことで「注意義務を怠った重大な過失があった」こと、さらに、昨年11月放送の『ニュースステーション』が、総選挙公示期間中に民主党が発表した閣僚名簿に関する報道を行ったことについても、「放送番組の適正な編集を図る上で遺漏があった」として、テレビ朝日に対して厳重注意処分を行うとともに「再発防止に必要な措置を講ずることを要請」した。
 
『TVタックル』の問題については、藤井議員自身が「放送と人権等権利に関する委員会(BRC)」に訴え、BRCは6月4日に「不規則発言がどの発言に対応するか確認すべきなのに怠った重大な過失責任がある」などと、テレビ朝日に対して「勧告」を出した。テレビ朝日はこれを受けて、6月7日の同番組内で経緯の説明と謝罪を行っている。今回の総務省の厳重注意処分は、このように第三者機関が判断を下し、放送局が自ら説明と謝罪を行って権利侵害の回復を図ったものに対して、さらに行政処分を下すという形をとったものである。
 BRCは、NHKと民放が自主的な第三者機関として設置したもので、有識者ら委員の議論によって出される「決定」には強制力はないが、各放送局がその決定を尊重することで、視聴者からの権利侵害の救済機関としての役割を一定程度果たしてきたと言える。そこへ、放送局の免許の許認可について権限を有する総務省が、BRCの決定を理由に行政指導を行うということになれば、放送業界の自主的取り組みという意味合いは失われ、行政当局による放送表現内容に対する直接的な取締りの様相を呈することになる。これまで、BRCの決定を理由に総務省(旧・郵政省)が放送局に対して処分を行った前例がなかったことは、上記のような懸念が背景にあったものと考えられる。今回の処分は、BRCの独立性を疑わせることによってその機能を蔑ろにし、放送関係者の自主的な努力を無にするおそれがある。放送業界、さらには日本の市民社会に与える影響は甚大なものになると言わざるを得ない。
 また『ニュースステーション』について総務省は、「同日の放送だけを見た場合は…配慮に欠けた構成」であったことから「政治的公平原則」との関係において遺漏があった、と処分の理由を明らかにしている。放送においては、時間的制約や演出・構成上の理由によって同一の番組内で必ずしも政治的公平を実現できないケースが多く、放送業界では一般的に、同一番組の別の放送日の放送などによって公平性を実現させることが行われている。海外でも、時間的な公平さよりも反論権の保障などで公平性を担保しようとする考え方が強い。それを、番組一回の放映のなかで政治的公平性を実現しなければならないとするのは、放送界の通念を超えた極端に狭い解釈を強制するもので、テレビにおける政治報道・選挙報道をこれまで以上に表層的なものにし、真実を追求するジャーナリズムとしての機能を損なってしまうおそれが強い。
 
 そもそも、放送番組編集の自由は憲法・放送法で保障された権利であり、政治的公平原則も含めて番組の内容・表現に関する問題は、放送局と市民・視聴者との関係のなかで主体的・自律的に判断されるべきものである。こうした考え方をもとに、BRCも設置されたと言える。過去においては行政当局も、放送事業者による自主的な判断を重んじる、とする見解を維持していた。
 ところが、1993年の「椿発言」事件に際して、当時の郵政省の江川放送行政局長は国会答弁で「政治的公平をだれが判断するのか…これは最終的には郵政省において…判断するということでございます」(93年10月27日衆院逓信委員会議事録)などと述べ、郵政省が放送番組の政治的公平性を判断する権限を有するという解釈を初めて示した。当時、研究者や市民などから多くの批判があったにもかかわらず、この解釈は変更されないまま、今日に至っている。そもそも電波法上の施設免許にすぎない放送局の免許をたてに、放送番組の内容・表現に立ち入って行政処分を下すことは行政機関による表現の自由の侵害であり、憲法に違反する不当な介入に他ならない。
「椿発言」事件は、93年の総選挙の際におけるテレビ朝日の一連の政治報道・選挙報道が政治的に偏向していたかどうかが問題視されたものだった(第三者としての有識者も加わって行ったテレビ朝日の自己検証では、政治的偏向は認められなかったという結論だった)。ところが、今回の『ニュースステーション』に対する総務省の処分は、番組一回だけの放送における政治的公平性を問題にしている点で、「椿発言」事件の時とは違って、個別の番組の表現内容にまで踏み込んでいる。このように、一つひとつの番組について総務省が政治的公平性を判断できるということになれば、行政当局がすべての放送番組をチェックして、すこしでも政治的公平性に疑義があると当局が判断したものにはすぐにでも行政処分を下すという、恐怖の"監視国家"を招来することになるのではないだろうか。番組の放送から7ヵ月以上も経過した時点で、これまでの解釈をさらに踏み越えるこのような処分を出さなければならない事情がどこにあるのか、理解に苦しむ。
 また、総務省は処分の中で「再発防止に必要な措置」をテレビ朝日に要請しているが、どのくらいの期間にわたって、どのような内容の措置を求めているのか、具体的に示されていない。過去に行われた同様の要請では、改善措置について数年間にわたって定期的な文書報告を求めた例も見受けられるが、このような措置は放送局側に課せられる負担も多大なものとなり、また行政当局によって恣意的に扱われる危険性も強く、放送局に対する事実上の圧力として機能しよう。
 
 一方で、当事者であるテレビ朝日をはじめ民放各局や民放連などが、こうした行政の圧力に対しては毅然とした態度で臨むべきであるにもかかわらず、まったく反応らしい反応を示さずにそのまま受け入れてしまっていることは、非常に理解に苦しむ。放送業界関係者は、このような事なかれ主義こそが行政側を増長させる原因になっていることを強く自覚すべきである。また、自らが設置したBRCにとって、今回の処分が第三者機関としての存立基盤そのものを揺るがしかねない危機的な事態であることを踏まえ、処分に対して異議を申し立てるなど、積極的に抗議の声を上げるべきである。               
 
以 上